連載小説 追憶の旅     「第4章  別れのとき」
                                 作:夢野 仲夫

「第4章  別れのとき」

    (本文) 「恵理の初めての経験」

 別れの時156 通算1121
 「わたしが拭いて上げる。」バスタオルで良の全身を拭く恵里。良はじっと立ったままであった。
 「じゃ、わたしも恵里を。」同じように恵里の身体の隅々まで拭く良。これから起こるであろうことを二人は感じながらも、たおやかな空気が流れていた。
 「恵里、お姫様抱っこしようか?」
 「大丈夫なの?」
 「俺はまだそんなに年を取っていないよ。」 恵里は良の首に手を回した。
 生まれたままの姿の恵里を、ベッドまで運んだ。

 別れの時157 通算1122
 そのまま二人は唇を重ねた。彼は手と唇を恵里の身体の隅々に這わせた。
 「あ 〜ん、トロけそう…。」恵里の口から悦びの声が断続的に漏れた。 良は強い欲望を感じながら、それを必死に抑えようとする気持ちがどこかで働いていた。
 良は恵里に重なりなっても、なかなかその気持ちを払拭8ふっしょく)できなかった。恵里はそれに気づいたように良に訴えた。
 「リョウ君、お願い…。あなたが欲しいの。あなたとの思い出が欲しいの…。」

 別れの時158 通算1123
 欲望と理性の間(はざま)で良は彷徨(さまよ)っていた。
 「リョウ君、どうして?わたし、魅力ないの?お願い!リョウ君、お願い!」不安そうに懇願する恵里。
 意を決した良は恵里を貫いた。そこには確かな処女の感触があった。恵里は明らかに痛さに耐えていた。
 「うれしいッ!」恵里の口から出た言葉は、それと裏腹で、目には涙が流れていた。
 良はじっとそのままの状態で恵里の涙を唇で拭った。
 「…わたし、女になったのね…リョウ君…。」

 別れの時159 通算1124
 じっとして動かない良に、
 「リョウ君のしたいようにして…。わたしは大丈夫…。」 初めての経験でも常に良に心を配る恵里であった。
 良はゆっくり動いた。恵里は良のすべを受け入れるような表情を浮かべて目を閉じていた。痛みと女になった悦びの間(はざま)で彷徨(さまよ)っているようにも見えた。
 そんな恵里に良は限りない愛しさを感じていた。その反面、罪悪感を消すことは出来なかった。

 別れの時160 通算1125
 「恵里、好きだよ…。」良が耳元で囁(ささや)くと、
 「リョウ君、好き…、リョウ君、好き…。」うわ言のように恵里は繰り返した。
 良が恵里に添い寝をした状態になると、良の方に向いて豊かな胸を押し当てて、自分から唇を重ね舌を絡(から)ませた。
 「怖くなかった?」
 「ううん、ちっとも…。だって、みんな通る道だから…。それに大好きなリョウ君だもの…。」
 あの大人しい恵里の強さに良は驚かされた。

 別れの時161 通算1126
 「恵里は怖がって震えると思っていた…。」
 「どうして、そんなに思ったの…?」
 「誰でもそう思うよ、きっと。」
 「…リョウ君は…今までに…。」
 「何のこと?」
 「ううん、いいの…。お手紙を書いて睡眠不足でしょ、リョウ君。」 恵里は肩越しに手を回し、良の背中を撫ぜた。
 愛しそうな撫で方であった。恵里の体の中に放出しなかった良であったが、彼女と結ばれた精神的な満足感に満ちていた。

 別れの時162 通算1127
 「男の人は出さなければ満足できないでしょ?リョウ君、どうして、私の中に…?妊娠の心配はないのよ。リョウ君に誘われたあと、ピルを飲んで準備していたの…。」
 「リョウ君の満足した顔を見たいのに…。それとも、わたしの体では…。」恵里は不安な表情に変わった。雑誌から得た知識なのだろう。
 「バカダなぁ、それは経験豊富な人の話。恵里のように初めての子に無理をさせるとセックス嫌いになる。」

 別れの時163 通算1128
 「ならないもん。リョウ君とだったら痛く…気持ちいいもん…。」恵里は快感の中にも強い痛みを伴っていたのだろうか?
 「リョウ君には女心が分からないの…。リョウ君が気持ちよくなってくれなければ、嬉しくないのに…。」
 「恵里の体はステキだったよ。俺は十分満足している。それに…。」
 「それに?」
 「また、明日の朝も恵里としたいし…。」
 「バカ…もっと婉曲(えんきょく)に言って。」彼女は良のわき腹を軽くつついた。

 別れの時164 通算1129
 恵里は良の肩越しに回した手で再び良の背中を撫ぜた。たおやかな時間がゆったりと流れた。
 良はいつしか眠りについていた。それを確認した恵里は、そっとベッドを抜け出そうとした。すると、良は背中をゴソゴソ動かした。恵里が再び背中を撫で始めると、安心したように良は軽い寝息を立てた。
 「うふ、ホントに子どもみたい…。」 恵里はバッグの中から手紙を取り出して、良に添い寝をしながら、一字一字を確認するように再び読み始めた。

 別れの時165 通算1130
 「…恵里…」良が恵里を呼んだ。
 「はい。」返事をしても答えはなかった。良は寝息を立てている。
 「わたしの夢を見ているのね。」恵里の胸にはこみ上げる喜びで満ちていた。 「
 …好きだよ、恵里…。」どんな夢を見ているのだろうか?恵里は手紙を手にしながら、良の寝顔を見つめた。
 身体を傾けて自分の乳房を良の口に近づけると、良は眠りながら乳首を口に含んで弄(もてあそ)んだ。
 「ダメ…、リョウ君ダメ…」消え入りそうな声を漏(も)らしていた。

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