連載小説 追憶の旅     「第4章  別れのとき」
                                 作:夢野 仲夫

「第4章  別れのとき」

    (本文) 美紀への傾倒
 
 別れの時236 通算1201
 「美紀、ごめん。辛いときはいつも美紀に…。」
 「いいのよ、リョウ君。」母親のような優しさだった。自分を慕う美紀に、女性との別れの辛さまでぶつける己に自己嫌悪感さえ抱いていた。
 「俺がいなければいいんだ。俺の存在がすべてをダメにしている。」
 「…リョウ君…、あなたが傍にいるだけで…幸せになる人もいるのよ…わたしのように…。」
 「いずれの日か、君もまた不幸にするかもしれない…。」

 別れの時237 通算1202
 「出会いには別れがあるの。たとえ、結婚してもいずれどちらかが先に死ぬのよ。変わって欲しくないと、どんなに願ってもすべて変わるの。」 娘のような年下の美紀が、まるでずっと年上の女性に感じられた。
 「美津子との本当の別れが来た…。美津子は今後、絶対に俺に会わないだろう…。美紀に会いたくて、会いたくて…。電話がなくてもここに来るつもりだった…。」
 「リョウ君…。」湯船の中で良を抱きしめながら美紀ももらい泣きしていた。

 別れの時238 通算1203
 「俺と別れてから…美津子は…男遊びに明け暮れていた…。再会してから…ずっと不信感があった…その通りだった…。」
 「美津子さんが?信じられない。絶対に信じられない!」
 「俺は気づいていたんだ。でも気づかないふりをしていた。そうしないと…美津子が俺の前から消えて行ってしまいそうで…。」
 「リョウ君と別れて、きっと寂しかったのよ。分かる気がする…。」

 別れの時239 通算1204
 「君もそうなる?そうだったら俺は今すぐ帰る。美紀の人生まで変えたくない。」
 「大丈夫よ、わたしは本当の恋がしたいだけだから…。リョウ君のことを思っていてもずっと心に秘めていたでしょ。安心して…。」 彼の頭を抱きしめて胸に当てた。しかし、良は放心状態のようにされるままであった。
 「美津子さんのお話がしたいのでしょ、リョウ君。」 彼に心の中を見透かすようであった。

 別れの時240 通算1205
 「どうして遊び人と気づいたの?」
 「ラブホテルに入るとき、何か手馴れている感じだった。慣れてない俺がオロオロしていたのに、彼女は平気な様子だった。」
 「リョウ君は女性のように繊細だから…。他には…。」
 「セックスのリズムが誰とでも合うような感じだった。」
 「リョウ君って、怖いのねぇ。気をつけようっと…。うふ。」美紀につられて良も笑った。
  「今夜、初めて笑ってくれた。」

 別れの時241 通算1206
 「レロレロしよ、リョウ君。」彼女から唇を合わせた。しかし、良の反応は鈍かった。
 「あ 〜あ、残念!」さも悲しそうに肩を落とす美紀が笑いを誘った。
 「美紀、ごめんな。こんなオジサンの、うだうだ話を聞かせて…。」
 「ううん、いいの。リョウ君の気持ちが落ち着けばそれでいいの。でも、もっと話したいんでしょ。出会いのとき、美津子さんはステキだった?」
 「まるで法隆寺の弥勒菩薩だった。」

 別れの時242 通算1207
 「上品であどけなくて…。何でも包み込む優しさと心の広さを感じた。」美紀は良のわき腹をつついた。
 「言うわね、私の前で。でも、今夜だけは許してあげる。」 常に良を追い詰めない美紀の姿勢は変わらなかった。
 「それで…。」
 「言い辛くなったじゃないか。」
 「いいの。気にしないで続けて…。」
 「湯船に長く浸かったのでのぼせそう。美紀、体を洗って…。」
 「困った子ねぇ。じゃあ、そこに座って。」

 別れの時243 通算1208
 美紀は嬉々として良の体を隅々まで洗った。
 「うふ、元気のないこと。男って繊細なの?それともリョウ君が繊細なの?」
 「他の人のセックスなんか知らないよ。ホモじゃないし…。」
 「リョウ君、話をもっと聞いて上げるから、お姫様抱っこして。」 風呂から上がると美紀が首に手を回した。
 「体重が増えてない?十キロくらい。腰を痛めそう。」
 「バ 〜カ、そんなに増えるはずないでしょ。でも、不安になっちゃった。ホントに重くなった?」

 別れの時244 通算1209
 「誰か他の人を抱っこして比べてない…?」良は慌てたが、平静を装った。
 「食べすぎじゃない?肉ばっかり食べてない?」
 「気になるなぁ。そういえばここ二、三日会社の人に誘われて飲みすぎかもしれない。」  
 「そうだろう。十キロは堅い。」
 「ホントにデリカシーがないのね。」 ベッドに運んだ良は美紀の胸に舌を触れた。
 「うふ、少しリョウ君らしくなったわ。」 美紀は良の下半身を手で触れた。

 別れの時245 通算1210
 「リョウ君、話を聞いてあげる。」肩越しに良の背中を掻きながら、良を促した。
 「初めてのときどうだった?」
 「そんなこと聞くの?」
 「リョウ君と初めてのとき、美津子さんは怖がったの?」
 「当然だろう。でも、君ほどじゃなかった。」
 「終わった後どんな表情だったの?」
 「確かな愛を得たという自信があったような…。」
 「そんなことまでリョウ君は話すの?エッチねぇ。」
 「君が聞いたじゃないか?」
 「聞いても話してはダメよ。」

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       第4章 別れのとき(BN)
 (0965〜) 親友花村部長と4人で「寿司屋 瀬戸」
 (0986〜) 恵理の葛藤
 (0996〜) レイクサイドホテル
 (1031〜) 美津子との距離
 (1046〜) 美紀のマンションで
 (1066〜) 恵理との小旅行
 (1083〜) 「日本料理 池田」
 (1094〜) 「恵理へのラブレター」
 (1111〜) 「恵理の初めての経験」
 (1176〜) 美津子の秘密「和風居酒屋 参萬両」
 (1196〜)  美紀への傾倒
 (1221〜)  最後のメール

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