連載小説 追憶の旅     「第5章  新たな出発」
                                 作:夢野 仲夫

「第5章  新たな出発」

    
(本文) 恵理の送別会「地鶏屋」

 新たな出発31 通算1311
 「美紀に皿洗いをさせると、お店の人がきっと迷惑するわ。」
 「どうして?」
 「お店の人に命令ばっかりするから。」三人は声を上げて笑った。しかし、恵里の表情にはどこか暗さがあった。
 「思い出したわ。今日は早く帰らなければならない日だった。」美紀が思い出したように慌てた。
 「どうしたの、美紀?」
 「弟がアパートに来ることになっているの。すぐ帰らなくちゃ。部長、恵里とごゆっくり…。」

 新たな出発32 通算1312
 「恵里、本当にごめんね。よりによってこんな日に…」何度も恵里に謝った。しかし、言いながらも良をじっと見つめていた。その目は何かを語っていた。
 「二人になっちゃった。恵里、わたしたちも出よう。」しばらくして彼らも店を出た。どこに行くか二人の暗黙の了解であった。 ラブホテルの部屋に入ると、すぐに恵里は激しく泣きじゃくった。
 「もう、イヤ!何もかもイヤ!」 今まで半狂乱の恵里を見たことはなかった。

 新たな出発33 通算1313
 「いい子でいるの、もうイヤだ!わたしだって…わたしだって…。何もかも捨ててしまいたい!いい子ですっと生きてきた…もう、イヤだ!何もかもイヤだ。行きたくない。どこへも行きたくない。リョウ君の顔を毎日見たい。わたし…いっそ死んだほうがまし…。」
 あの冷静な恵里の姿に良は言葉を失った。良とて同じ気持ちであった。だが、口にはできないことであった。別れてはならないと感じていても、年齢の差は大きな壁であった。
 「リョウ君、わたしをメチャメチャにして…。」

 新たな出発34 通算1314
 「リョウ君お願い!わたしをメチャメチャにして!」 恵里は狂ったように良に衣服を脱がして、自分も衣服を脱ぎ捨てた。
 「もう、いいの。何もかも…。リョウ君のいない生活なんて…。生きていく意味が無い。もういいの…。いい子はもういい。どう思われても、周りにどう思われても…。」
 「リョウ君、抱いて。わたしをメチャメチャにして、お願い、リョウ君!」 恵里から良の唇を求めた。そして激しく良の舌を吸った。
 その激情に良は圧倒されそうであった。

 新たな出発35 通算1315
 良の唇が全身を這うと、
 「アアン、リョウ君、メチャメチャにして。もっともっと…。もう、いい子でいるのはイヤ!いい子でいるのはイヤだ!」
 「恵里、好きだよ。恵里…。」「ああ、リョウ君。わたし、死にたい。もう死んでしまいたい。アアン、もっともっと…わたしをメチャメチャにして…アウッ…。」
 良が恵里の体を貫いた瞬間、
 「コワ 〜イ、リョウ君、助けて、リョウ君!」彼女の体が硬直し、小刻みな痙攣が起きその後ぐったりして、死んだように動かなくなった。

 新たな出発36 通算1316
 彼女は失神していたのだ。しばらく何の反応も無かった。意識を取り戻すと小刻みな痙攣を繰り返した。
 「はぁ、はぁ、リョウ君、わたしどうなったの?」良は止めていた腰を動かした。
 「ああ、また、かんじるぅ。リョウ君、ああ…。」良の動きに合わせて、恵里も自然に腰を動かしていた。
 「また、どこかへ行きそう…ああ、リョウ君コワ 〜イ。ウ 〜ン、イクッ。」恵里はまた体を反りかえらして痙攣を繰り返した。良も恵里の声に触発されて果てた。

 新たな出発37 通算1317
 「はぁ、はぁ…リョウ君、わたしどうしたの?はぁ、はぁ…」息を整えながら恵里は愛しそうに良を見つめた。
 「恵里はオルガスムスを知ったんだよ。それ以上に失神まで…。」
 「あれがそうなの?友達が言っていたオルガスムスなの?」
 「そうだよ、その感覚を知らないで一生を終える女性もいる。その上、恵里は失神まで経験したんだ。」
 「リョウ君、ありがとう。リョウ君に会えて、わたし幸せ。でも、別れたくない。リョウ君と別れたくない。」

 新たな出発38 通算1318
 「リョウ君と結婚できないことは分かっている。でも、愛人でもいい、リョウ君の傍にいたい。」
 「恵里!」
 「リョウ君の傍にいたい。毎日顔を見るだけでいい。もう、イヤ!いい子でいるのはもうイヤだ。わたしだって、わたしだって…。」
 「恵里…泣かないで…。」
 「だって、お別れが目の前に…。これからはリョウ君の顔が見られない…。結婚なんて望んでいないのに…。愛人でも何でもいい…。」 あの恵里が大声で泣きじゃくった。

 新たな出発39 通算1319
 「恵里、結婚できるよ…。」彼は遂にタブーを口にした。
 「エッ!ウソでしょ。そんなこと無理でしょ。だって、リョウ君には奥さんがいる…。」
 「居ないよ、俺は離婚しているよ…。」
 「ウソでしょ、信じられない。恵里、信じられない。」
 「本当だ。俺は妻にも子にも捨てられた。美津子にも…。」
 「リョウ君…本当の話なの?」
 「ああ、みんな俺から去っていく。今度は恵里も…。」 言いながら良に目から涙が溢れた

 新たな出発40 通算1320
 「美紀はそれを知っているの?」
 「いや、誰も知らない。知っているのは花村だけ…。」
 「恵里、君が冷静になっても…俺と結婚を望むなら…。」
 「ホント?リョウ君、ホントにホント?わたしと結婚してくれるの。うれしいッ!」
 「だけど…」
 「だけど?」
 「落ち着いて考えた方がいい。俺と君では十六歳違っている。この年齢の差はどうしようもない厚い壁だ。俺にとっては越えられないほどの厚い壁だ。それでもいいなら…。

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       第4章 別れのとき(BN)
 (0965〜) 親友花村部長と4人で「寿司屋 瀬戸」
 (0986〜) 恵理の葛藤
 (0996〜) レイクサイドホテル
 (1031〜) 美津子との距離
 (1046〜) 美紀のマンションで
 (1066〜) 恵理との小旅行
 (1083〜) 「日本料理 池田」
 (1094〜) 「恵理へのラブレター」
 (1111〜) 「恵理の初めての経験」
 (1176〜) 美津子の秘密「和風居酒屋 参萬両」
 (1196〜)  美紀への傾倒
 (1221〜)  最後のメール
 (1255〜) 江戸蕎麦「悠々庵」 *リンク間違いをまたまた

     
  第5章 新たな出発(BN)
 (1281〜) 恵理の引っ越し「おでん屋 志乃」
 (1306〜) 焼き鳥屋「地鶏屋」