連載小説　追憶の旅　　　　　「第５章　 新たな出発」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 作：夢野　仲夫

　登場人物とあらすじ
１章：美津子との再会(１〜３１４)　学生時代、大恋愛の末に別れた美津子の幻影から逃れられず、ずっとその幻影を追い続ける良(りょう)。その彼女に２０年ぶりに出会う。一方、妻子ある良に心を寄せる部下の恵理と彼女の親友の美紀。良を巡る３人の女性の愛憎を描く。

２章：千晴との出会い(３１５〜６３０)　大学を卒業してサラリーマンになった良が通う食堂で知り合った千晴。通りすがりの人が振り返るほどの美貌を備えた彼女。美津子との過去に縛られた良と千晴の想い出を織り交ぜながら、恵理と美紀との絡み合う愛。

３章：良の苦悩(６３１〜)　２０年前に別れた美津子との出会いが良の心を悩ませた。さらに千晴の化身のような美紀とひたむきに良を慕う恵理との間(はざま)を揺れ動く良。良をめぐる三人の女性の愛。

５章：新たな出発(１２８１〜)　良の周りに起こる目まぐるしいほどの様々な出来事。良の新たな出発とは？

「第５章　 新たな出発」

　　　　(本文)　恵理の新天地

　新たな出発９１　通算１３７１
　父にも母にも近いうちに納得してもらえるメドがたちました。後は私の料理の腕を上げるだけです。今までも父の食事の準備をしていたので少しはできます。
　しかし、グルメの良君の舌を満足できるレベルではありません。料理学校に通っていますが、良君が納得してくれるレベルにいつなれるか心配です。
　ところで、美紀とは最近食事してないようですね。美紀も寂しがっていました。

　新たな出発９２　通算１３７２
　 ときどき食事に連れて行ってあげてね。美紀は一生の友達です。でも、ちょっとだけ不安。だって、私よりずっとキレイだし、魅力があるから…。
　絶対に浮気しないでね、良君、だ〜い好き。
　彼もこまめにメールを送った。 「私の方は恵理との結婚生活に備えて、お金を貯めています。あまりにも無駄だった外食を減らしました。自分で簡単な料理をしたり、スーパーで総菜を買ったり、コンビニで買った弁当で済ませることもずいぶん増えました。」

　新たな出発９３　通算１３７３
　「恵理との幸せな結婚生活を送るためには、やはりお金です。恵理に苦労をかけないためにも、必死で頑張ろうと決めている。恵理が頑張っているので、私も負けないように頑張る。恵理の笑顔を思い浮かべたり、恵理のスタイルのいい体を思い浮かべては、一人でニヤケています。あ〜、恵理に会いたいよう。抱きしめたいよう。」
　「父と母を説得できたらすぐそちらに行きます。それまで待っていてね。」すぐに返事が来た。

　新たな出発９４　通算１３７４
　恵理の方は順調に進んでいるようであった。それに対して再就職の問題は彼を悩ませていた。 メールだけでなく毎日かかる電話の声がいつもとはずいぶん弾んでいた。
　「リョウ君、良い知らせがあります。両親が納得してくれました。ただし、会って見なければ最終的な結論は言えないとのことです。」
　「やったね、恵理。」
　「はい、今まで両親の言う通りになった良い子でいた恵理に、最初は戸惑っていたみたい。」
　「そうだよな、恵理は良い子だからね。」

　新たな出発９５　通算１３７５
　「今度の週末にこちらに来て両親に会って下さい。良君に会ったらきっと納得するから…。」
　「分かった。ぜひ行かせてもらう。でも、お母さんが恐くない？」
　「大丈夫よ！心配しないで…。」
　「お父さんは堅物なんだろう？やりにくそうだなぁ。」
　「それも大丈夫。父は蕎麦打ちに凝っていて、リョウ君が手打ちそばが好きだと知って、『美味しい蕎麦を食べて貰う』と張り切っているの。一番楽しみにしているのは父かもしれません…。」

　新たな出発９６　通算１３７６
　 両親に型どおりの挨拶をした。彼らは良を厳しく観察していた。良もまた、自分の義理の両親になる二人の様子を見た。母親は恵理そっくりの楚々とした美人であった。恵理の話から想像していた恐さはなく、上品で優しそうな女性だった。
　父親は想像通りの堅物のようであった。良についての詳しいことは恵理からすべて聞いていたため、それを確認し、本人の人柄を確認したいと考えていたようであった。彼らの表情で気に入られたのが想像できた。

　新たな出発９７　通算１３７７
　「リョウ君、さっきからママをチラチラ見ているけど、何か気になるの？」四人で夕食のテーブルを囲んで食事をしていた。
　「…別に…。」
　「何か隠しているでしょ。言って下さい、遠慮はいらないから。ねぇ、ママ。」
　「そうですよ、リョウ君、遠慮なく言って…。」
　「…実を言うと…。もっと恐い人かと思っていました。それが恵理君そっくりで、美人で優しい人だったので驚いています。」

　新たな出発９８　通算１３７８
　「まぁ、そんな…。こんなオバサンを…。リョウ君ったら…。お世辞は抜き…。」母親は相好を崩した。
　「ママ、リョウ君はお世辞を言う人じゃないわよ。」
　「ホント？」
　「お世辞なんかじゃありません。恵理君もお母さんの年頃になっても、こんなキレイになんだと思うと嬉しくなります。それに若いし…。二人は姉妹と間違われるでしょう？」 母親は照れていた。
　「パパは全然そんなこと言ってくれない…。恵理はいいわねぇ。こんないい人と…。」

　新たな出発９９　通算１３７９
　「きっと、お父さんも思っていらっしゃるでしょう。しかし、日本人はそれを口にしないから…。」
　父親の顔を見た。アルコールが多少回ったのだろうか、ポツリ、ポツリと話した。
　「ママはキレイだったよ。今の恵理よりずっとキレイだったかもしれない…。」
　「パパ、そんな風に思っていてくれたの？それなら言ってくれれば嬉しいのに…。」
　「こんな美人が私のお嫁さんになってくれるのかと…。天にも昇る気持だった…。」

　新たな出発１００　通算１３８０
　「パパ！恥ずかしいじゃない、リョウ君の前で…。」母親も普段口にしないアルコールの酔いが回っていたのだろう。
　「ご馳走様…。パパとママのオノロケを初めて聞いたわ。」
　「恵理、リョウ君に私の悪口を言っていたでしょ。」
　「わたし、ママの悪口を言ったことはない。」
　「じゃ、リョウ君はなぜ私が恐いと思っていたのかしらね？」
　「…そうだわ、わたしの見合いのときの話をしたことがある…。パパにキレたことがあったでしょ…。

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　　　　　　　第４章　別れのとき(BN)
　(０９６５〜)　親友花村部長と４人で「寿司屋　瀬戸」
　(０９８６〜)　恵理の葛藤
　(０９９６〜)　レイクサイドホテル
　(１０３１〜)　美津子との距離
　(１０４６〜)　美紀のマンションで
　(１０６６〜)　恵理との小旅行
　(１０８３〜)　「日本料理　池田」
　(１０９４〜)　「恵理へのラブレター」
　(１１１１〜)　「恵理の初めての経験」
　(１１７６〜)　美津子の秘密「和風居酒屋　参萬両」
　(１１９６〜)　 美紀への傾倒
　(１２２１〜)　 最後のメール
　(１２５５〜)　江戸蕎麦「悠々庵」　＊リンク間違いをまたまた

　　　　　　　　第５章　新たな出発(BN)
　(１２８１〜)　恵理の引っ越し「おでん屋　志乃」
　(１３０６〜)　焼き鳥屋「地鶏屋」
　(１３６１〜)　恵理の新天地