連載小説 追憶の旅 「第５章 新たな出発」 作：夢野 仲夫 登場人物とあらすじ １章：美津子との再会(１〜３１４) 学生時代、大恋愛の末に別れた美津子の幻影から逃れられず、ずっとその幻影を追い続ける良(りょう)。その彼女に２０年ぶりに出会う。一方、妻子ある良に心を寄せる部下の恵理と彼女の親友の美紀。良を巡る３人の女性の愛憎を描く。 ２章：千晴との出会い(３１５〜６３０) 大学を卒業してサラリーマンになった良が通う食堂で知り合った千晴。通りすがりの人が振り返るほどの美貌を備えた彼女。美津子との過去に縛られた良と千晴の想い出を織り交ぜながら、恵理と美紀との絡み合う愛。 ３章：良の苦悩(６３１〜) ２０年前に別れた美津子との出会いが良の心を悩ませた。さらに千晴の化身のような美紀とひたむきに良を慕う恵理との間(はざま)を揺れ動く良。良をめぐる三人の女性の愛。 ５章：新たな出発(１２８１〜) 良の周りに起こる目まぐるしいほどの様々な出来事。良の新たな出発とは？ 「第５章 新たな出発」 (本文) 暗転 またまたリンクの間違いがありました 新たな出発１７１ 通算１４５１ しばらく運転する気分にはなれなかった。いつしか車に中でうとうとしていた。 亡くなっているはずの母が彼に話しかけた錯覚にとらわれた。 「リョウ君、大丈夫よ。どんなことがあっても、わたしはいつもあなたの傍にいるから…。出会いがあれば別れはあるの。でも、決して諦めてはいけない。リョウ君は強い子だから…。 わたしの大切な、大切な宝物だから…。」夢と現の間で良は泣き声を挙げていた。 新たな出発１７２ 通算１４５２ 彼はアパートに帰って携帯を確認するとメールが入っていた。恵里からのメールかと心を躍らせたが、それは美紀からであった。 「父が交通事故で亡くなりました。取り合えず連絡だけしておきます。会社には明日人事部に伝えます。」 良の頭の中は真っ白になっていた。想像すらできない出来事であった。森羅万象すべてが変わることは分かっている。しかし、余りにもその変化が突然であった。 新たな出発１７３ 通算１４５３ 自分だけの悩みを抱いているときではなかった。良が苦しいときには、常に助けてくれた美紀。その美紀に大きな不幸が襲っているのだ。しかし、どうしたらいいかの判断に迷っていた。自宅にいるのか、病院にいるのかさえ分からなかった。 慌ててメールを送った。 「美紀気を落とさずに。お母さんと弟が気を落としているから君が支えてあげて…。わたしにできることがあったら何でも言って下さい。」 新たな出発１７４ 通算１４５４ 携帯を確認すると電話が数件入っていた。すべて美紀からだった。気が動転していた良は電話さえ気づかなかったのだ。美紀が良を頼っているのに…。良は電話が来るのを待った。バタバタして携帯を見る時間がないのだろうか？美紀からしばらく電話はかからなかったが、その夜遅くかかってきた。 「リョウ君…大変なの…どうしたらいいかわからないの…。」あの明るい美紀が沈んでいた。 新たな出発１７５ 通算１４５５ 「父が細い道路から国道に飛び出したとき車に衝突されて。ほんの一瞬の出来事で…即死だった…。」「…。」 「すべて父に頼っていたから…。少し落ち着いたら相談に乗って下さい。母は泣いてばかりで…。弟もまだ高校生だし…。」 「俺ができることは何でもするから…。美紀しっかりして。君がしっかりしなければ…。」 「分かっています。リョウ君の声を聞いただけで、少し気が晴れました。バタバタしているので今日はこれで…。」 新たな出発１７６ 通算１４５６ 美紀もまた、彼から去って行くのではないかと不安が襲った。あり得ないと信じていたことが何も根拠もないことを思い知らされた。すべては変わることは理解している。しかし、それは所詮感覚的でしかなかった。 翌々日に彼女の父親の葬儀があった。当然社葬と思っていたが、そうではなかった。しかし、故人の人脈の広さを感じさせた。 葬儀の受付に向かうと、清楚な美しい女性がそこにいた。 新たな出発１７７ 通算１４５７ 最初は気付かなかったが、それは恵理であった。美紀の職場関係の参列を考えて、恵理に頼んだのであろう。一瞬二人は目が合った。恵理の瞳には万感の思いが込められているようであった。しかし、声を掛けたくても掛けられる状況ではなかった。儀礼的に挨拶をするのが精いっぱいであった。 故人の親戚筋の席を通り過ぎる時、美紀がいた。喪服姿の美紀は際立っていた。これほど美しい美紀を見たのは初めてであった。 新たな出発１７８ 通算１４５８ 通り過ぎる参列者の中に良を見つけた美紀は、何かを訴える目で良を見た。ここでも良は声を掛けられなかった。黙って会釈をするだけであった。 良に気づいた正一郎は「部長さん…。」良に涙声を掛けた。高校生になったばかりの彼には、今後背負わなければならない、家族と会社の重圧を感じているのであろうか。 「ショウ君、何でも相談に乗るよ…。」良の言葉に正一郎は黙って頷いた。 新たな出発１７９ 通算１４５９ 初めて見た美紀の母親は、美しい女性ではあったが、一癖あるようだった。家庭内の絶えないトラブルの理由も分かる気がした。その彼女は打ちひしがれていた。自由勝手に生きることができたのは、夫の存在によるものであることが実感されていたのだろうか？ 読経を聞きながら、彼は故人の人脈の広さにあらためて驚いていた。送られた生花の数だけでなく、想像さえできない人からのそれもあった。一代で企業を大きくさせる人物の凄さをあらためて実感させられた。 新たな出発１８０ 通算１４６０ 葬儀の最後に参列者へ挨拶したのは、喪主の母親ではなく美紀であった。型どおりの挨拶であったが、その声は凛としていた。「自分が紺野家を支える。」という強い気持ちが伝わった。若干二十五歳の美紀の強さに、良は強い驚きを隠せなかった。 恵理との別れにオロオロして、泣くしかない自分の弱さにますます落ち込むのであった。 恵理と話したい気持ちを抑えて、彼はショボショボとアパートに帰った。 次のページへ(１４６１〜１４７０) トップページへ 追憶の旅トップへ 第１章 美津子との再会(BN) (０００１〜) 偶然の再会「イタリア料理まちかど」 (００２１〜) 別れの日 (００３４〜) 家族の留守の夜 ００４７〜) 初めての衝撃的な出会い (００５３〜) キスを拒む美津子 (００７０〜) 恵里と美紀との食事 フランス料理「ビストロ シノザキ」 (００９１〜) 一人で思いに耽る良「和風居酒屋 参萬両」 (０１０１〜) 良に甘える恵理「おでん 志乃」 (０１２３〜) 恵理・美紀と良の心の故郷「和風居酒屋 参萬両」 (０１３１〜) 恵理と食事の帰り路「おでん 志乃」 (０１４１〜) 再び美津子と出会う「寿司屋 瀬戸」 (０１６１〜) 恵理のお見合いの結末「焼き肉屋 赤のれん」 (０１８１〜) 美津子と二十年ぶりの食事「割烹旅館 水無川(みながわ)」 (０１９５〜) 美津子に貰ったネクタイの波紋「焼き鳥屋 鳥好(とりこう)」 (０２０６〜) 美紀のマンションで、恵理と二人きりの夜 (０２３６〜) 恵理と美津子の鉢合わせ「寿司屋 瀬戸」 (０２６１〜) 美津子からの電話 (０２８０〜) 深い悩みを打ち明ける美津子「レストラン ドリームブリッジ」 (０２９６〜) 飲めない酒を浴びるように飲む「和風居酒屋 参萬両」 (０３００〜) 美紀のマンションで目覚めた良 第２章 千晴との出会い(BN) (０３１６〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」 (０３２０〜) 千晴との初めてのデート (０３２９〜) 美しいゆえにに悩むキャピー (０３５１〜) ２回目のデート「蕎麦処 高野」 (０３７１〜) 海が見える高台で… (０３８３〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」 (０３９６〜) 過去に縛られる良への怒り (０４１０〜) ラブホテルでの絆 (０４３１〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」 (０４３９〜) 良のアパートで…。 (０４７１〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 (０４８１〜) 美紀のマンションで長い夢 (０５３１〜) キャピーと初めての１泊旅行 (０５４５〜) ２人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」 (０５５６〜) 美紀と得意先に営業 (０５８２〜) キャピーとの別れの真相 (０６１１〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」 第３章 良の苦悩(BN) (０６３１〜) 恵理の葛藤「おでん 志乃」 (０６５１〜) 良の隠れ家へ美紀が…「会員制クラブ 志摩宮」 (０６７１〜) マンションに誘う美紀 (０６８６〜) 美津子から急な呼びだし (０７０１〜) 美津子の夫のアメリカ赴任「料亭 古都」 (０７３１〜) 宣戦布告以来初めて３人で食事「豆腐料理 沢木」 (０７４１〜) 馴染みのバー「クラブ 楓(かえで)」 (０７５６〜) 人生の転換期の苦悩「ビストロ シノザキ」 (０７７１〜) 美紀の弟正一郎との出会い「イタリア料理 ローマ」) (０８０６〜) 美津子と想い出の店で「和風居酒屋 参萬両」 (０８２３〜) 美津子との復活 (０８５６〜) フランス料理「右京」 (０８８１〜) スナック「佳世(かよ)」 (０８９１〜) 美紀と初めての夜 (０９１６〜) 良の家庭崩壊「寿司屋 瀬戸」 (０９３６〜) 美紀の苦悩 第４章 別れのとき(BN) (０９６５〜) 親友花村部長と４人で「寿司屋 瀬戸」 (０９８６〜) 恵理の葛藤 (０９９６〜) レイクサイドホテル (１０３１〜) 美津子との距離 (１０４６〜) 美紀のマンションで (１０６６〜) 恵理との小旅行 (１０８３〜) 「日本料理 池田」 (１０９４〜) 「恵理へのラブレター」 (１１１１〜) 「恵理の初めての経験」 (１１７６〜) 美津子の秘密「和風居酒屋 参萬両」 (１１９６〜) 美紀への傾倒 (１２２１〜) 最後のメール (１２５５〜) 江戸蕎麦「悠々庵」 ＊リンク間違いをまたまた 第５章 新たな出発(BN) (１２８１〜) 恵理の引っ越し「おでん屋 志乃」 (１３０６〜) 焼き鳥屋「地鶏屋」 (１３６１〜) 恵理の新天地 (１４０８〜) おでん屋 志乃 (１４５１〜) 暗転 |