連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

 千晴との出会い76 通算391
 見ないふりをして、周りのお客さんがチラチラと二人に目をやっていた。場違いなほど千晴の美しさは目立っていた。
 幼さを残しながらも華やかな顔立ちと、そのスタイルの良さは何を着ていても際立った。男が寄ってくるのも当然だろう。
 連れて歩いて周りに自慢したくなる男の気持ちが良にも分かった。
  「リョウ君のバカ!エッチなことを言うからみんながこちらを見るじゃない!」

 千晴との出会い77 通算392
  「何も言ってないよ。」
 「レロレロと言ったじゃないの…」 彼女はレロレロと自分で口にしたのに気づいて、シマッタと手で口を塞(ふさ)いだ。
 「バカだなぁ、誰もレロレロと言っても分からないよ。君だけの言葉。俺と君が分かるだけ。」
 「良かったぁ。」彼女は胸をなでおろした。
  「…でも…何かチラチラ見られているような…」
  「うん、後で理由を教えてあげる。」

 千晴との出会い78 通算393
 そこへ経営者が挨拶にやってきた。「冷やしぶっかけうどん」を注文すると良だと分かるようだ。 経営者も彼女を盗み見しながら良に話しかけた。
 「なぜこんな美人と?」という経営者の気持ちがありありと良にも伝わった。千晴はそれほど良には似つかわしくなかったのだ。
  「理由を教えて。」 店をでるとすぐに尋ねた。
 「何の理由?」 良は忘れたふりをした。
  「私たちを盗み見する理由でしょ。」

 千晴との出会い79 通算394
  「俺と君が似合わないからだろう。」「どうして?」
 「俺のようなどこにでもいる兄ちゃんが、君のような美人と一緒なのが不思議なんだろう。」
 「ウソ!ウソ!絶対ウソ!私とリョウ君はどこから見ても似合いのカップルよ。」
 「どこがお似合いなんだ!自分のことは自分で分かっているよ!」
  「リョウ君、イジケてない?」
 「イジケているよ、それがどうした!何が悪い!」
  「カワイイ!リョウ君。まるで子どもみたい。」

 千晴との出会い80 通算395
 「俺をバカにしていない?」
  「なぜ恐い顔をするの?お願いだから機嫌を直して…。リョウ君もカッコいいと思うけどなぁ。広松食堂のお婆ちゃんもハンサムな青年と言っていたけど。」
  「婆ちゃんかぁ。」
 「婆ちゃんじゃいけない?」
  「婆ちゃんにモテてもなぁ。」 千晴は笑い転げた。
  「リョウ君モテたいの?」 千晴は単刀直入に問いかける。良はタジタジだった。
  「じゃ、リョウ君、あまり人のいない静かなところに連れて行って。それならいいでしょ。」
       過去に縛られる良への怒り
 千晴との出会い81 通算396
  「リョウ君、聞いてもいい…やはり聞くのをやめようかな?どうしようかな?」 車の中でしきりに考え込んでいた。
  「そこまで言ったら気になるじゃないか。」
 「でも…リョウ君は怒りん坊だから…。」 「怒らないよ。」
 「絶対に!…美津子さんと一緒のとき、みんな振り返らなかった?…」
 「振り返ったさ。」
 「その時あなたはどう思っていたの?」 鋭い指摘であった。千晴に指摘するまで良は考えたこともなかった。

 千晴との出会い82 通算397
 言われればその通りであった。一目で庶民と分かる良と、いかにも良家の子女らしく上品さを漂わせた美津子とは不釣合いなカップルであった。
 彼女の美しさに振り返るのか、良との不釣合いに振り返るのかは不明であったが、彼らを通行人はよく振り返ったものだ。
 当時、彼はそのことに喜びを感じていた。美人を連れていることに半ば勝利感を覚えていたのだ。同じ状況であっても今は敗北感になってしまっている。

 千晴との出会い83 通算398
  「リョウ君、ひがみっぽくなったのね。」−千晴は容赦(ようしゃ)なく言い切った。
  「多分そうだろう。美津子と別れてから俺はずっと敗北感を味わっている。」実際何をやっても勝利感を味わったことがないのに気づいた。美津子との別れは彼から肯定的な見方を失わせていたのだろう。
  「君の言う通りだ。俺には返す言葉がない。」
 「…美津子さんが…リョウ君の…すべてなの…。ぜ 〜んぶ、美津子さんにつながるのね…。」

 千晴との出会い84 通算399
 「わたし、もう帰る…もういい…。リョウ君、送って…。」 良は来た路に方向転換した。車の中に気まずい空気が流れた。
 「でも、これでいいんだ。」−良の心の中には、深入りしなくて良かったという安堵感(あんど)があった。これ以上深入りすればするほど、千晴を不幸に陥(おとしい)れる気配を感じていた。
  「…リョウ君は三津子さんの奴隷…解放されることのない奴隷…」

 千晴との出会い85 通算400
  「その通りかもしれない。でも、仕方がないんだ。」 良は力なく答えた。明日からはまた千晴と知り合う前の生活に戻るだけだと心に決めた。すると良の目から涙が流れた。
  「キャピーありがとう。俺の荒れた心に短い間でも…潤(うるお)いを与えてくれた…本当にありがとう…。」
  「ヤダ!ヤダ!絶対にイヤ!わたし、リョウ君と別れない。絶対に別れない!リョウ君と別れたくない!」

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」

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