連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

       キャピーと初めての1泊旅行
 千晴との出会い216 通算531
 「キャピー、どこへ行く?」
 「リョウ君の行きたいところならどこでも…。」 いつものパターンで始まった。
 「今日は遠くまで行きたいなぁ。一泊する?ダメ?」 珍しく千晴から希望を言った。
 「一泊できるの?」 「友達と一泊旅行するってママに言って出たの。」
 「キャピーと旅行か…それもいいなぁ。」
 「美味しいお店のあるところに行こうよ、リョウ君。」  
 「じゃ、キャピーの言う通りにしよう。いつも俺のきまぐれに付き合ってもらっているから。」

 千晴との出会い217 通算532  
 「車で走って疲れたら、そこで適当なホテルを探そう。それでいい?」 「うれしいッ!」
 彼らは行く先の当ても無く出発した。
 「はい、コーヒー。」 真冬でもアイスコーヒーを飲む彼の嗜好(しこう)を知り尽くしていた。
 助手席でポリポリ音がする。見るとスナック菓子を頬張っている。
 「リョウ君も食べる?」
 「バカ!小学生の遠足か。」
 「だって、旅行にはスナック菓子は必需品でしょ。」

 千晴との出会い218 通算533  
 音がしなくなったと思ったら寝息を立てていた。子どものような天真爛漫(てんしんらんまん)さが千晴であった。
 「起きて、千晴。」 「いや、もっと寝ていたいの、ママ。」
 家で母に起こされていると間違えているようだった。彼は家庭でどのような反応をしているか、いたずらした。
 「仕事に遅れるわ、早く起きなさい。」 「もう、ちょっとだけ寝させて、ママ。」
 「リョウ君から電話よ。」 「ホント、すぐ起きる!」

 千晴との出会い219 通算534
 目を覚ました千晴は「電話は?」 と寝ぼけていた。
 「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。」
 「どうしたの?わたしいま、どこにいるの?」 千晴はキョトンとしていた。
 「何を笑っているの、リョウ君?何がおかしいの?」
 「さっきまで夢を見ていなかった?」 「夢だったの?」
 「どんな夢を見ていたの?」
 「仕事行く前にママに起こされる夢。」 「それだけ?」
 「リョウ君から電話がかかってきたの。それで飛び起きたの。」

 千晴との出会い220 通算535
 千晴は良の悪戯(いたずら)に気づいたようだった。
 「早く起きなさいと言ったのはリョウ君だったのね。リョウ君から電話と言ったのも、もしかして、リョウ君?」
 「わたしだまされちゃった。意地悪ねぇ、リョウ君はイケズねぇ。」
 寝ていても「リョウ君」という言葉に強く反応する千晴の一途な気持ちに良は考え込んでしまった。

 千晴との出会い221 通算536
 別れに日が来たときの千晴の地獄を想像せざるを得なかった。なぜなら、彼女との結婚に踏み切れない自分を感じていたからだ。
 出会いの時が悪かった。美津子と出会う前であったらと、良は沈み込んでしまった。
 「リョウ君、どうしたの?具合が悪いの?」 彼の心の中が見えない千晴は、心配そうに彼の額に手を当てた。
 「熱は無いようね。大丈夫?旅行止める?」 自分のことのように彼を気遣った。

 千晴との出会い222 通算537
 「わたし、リョウ君の匂いが好きなの。リョウ君のそばにいると気持ちが落ち着くの。」 体臭を好きだと言われたのは初めてだった。
  生きとし生けるものはすべて体臭を持っている。その体臭は自分には分からない。その匂いを好きというのを相性がいいと言うのであろうか?
 熱にうなされたような恋愛の当初は、たとえ嫌いな匂いでも好ましく感じる。しかし、熱が冷めたときに本性が出る。傍(そば)に近づくのさえ寒気を感じるのだ。

 千晴との出会い223 通算538
 それともセックスが合うことを、相性がいいと言うのだろうか?セックスを重ねるたびに、千晴との体は馴染(なじ)んでいた。彼女とは本質的に相性がいいのであろうか?
 千晴と別れる理由は一つを除いてはないはずであった。
  「リョウ君、何を考えている?」この頃には良が自分の世界に入ることも、うすうす理解していた。
 「キャピーは何を食べたら喜ぶだろうか?」

 千晴との出会い224 通算539
 「ウソよ、リョウ君。わたしにとっていいことではないみたい…。」 「どうして?」
 「リョウ君の表情が暗いから…。」 「…。」 千晴はすべてお見通しであった。 
 「いいことを考えているときにはもっと明るいわ。」 「たとえば?」
 「えーと、そうねぇ、レロレロかな?」
 「キャピーの思いつくのはレロレロだけか。あ 〜あ、スケベーだなぁ。」 
 「意地悪!例を言っただけなのにぃ…。」
 「アッ!忘れていた。」 「なにを?」

 千晴との出会い225 通算540
 「挨拶のレロレロしてなかったじゃない。リョウ君、しよ。レロレロしよ。車を止めて。」
  路肩に車を止めて軽く唇を重ねた。
 「もっと、真面目にやってよ。」千晴は真剣な表情に変わった。
 「リョウ君、別れのことなんか想像してないでしょうね。」 ズバリの指摘に良は答えられなかった。
 「わたし、わたし、リョウ君のいない生活を思うだけで…。」  千晴は何かを感じているようだった。天真爛漫(てんしんらんまん)に振舞う千晴だが、勘のいい子だった。

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」


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