連載小説 追憶の旅     「第4章  別れのとき」
                                 作:夢野 仲夫

「第4章  別れのとき」

    (本文) 美津子の秘密「居酒屋 参萬両」

 別れの時216 通算1181
 「こんなに真面目になると分かっていたら、リョウ君をつかんでおけば良かった。わたし、見る目が無かったから…。」 二人はビールを傾けては昔話に没頭した。
 「君のようなタイプは苦手だから。」
 「どうして?」
 「見るからに騙され易いタイプだよ。」
 「純粋培養で育てられて、女子中、女子高だったろう。多感な時期に、男に対する免疫力を養っていない場合によくあるタイプだよ。」
 「周りの友達で、私以外はそうでもないようだけど…、要は私がバカだったのよ。」

 別れの時217 通算1182
 「君のようなタイプにつかまると大変なことになる。」
 「どうして?」
 「尽くしてくれるだろうけど、ヤキモチがひどいはず。自由に生きられない。」
 「ズバリその通り。だらしない甘え男に騙されてばっかり…。中には結婚している相手もいたわ。最悪の失恋ばかり…。」
 「美津子と付き合うなと言ったのを後悔しそう。リョウ君がこんなに真面目になるなんて…。」
 「俺は何も変わっていない。変わったのは君の見る目じゃない?」

 別れの時218 通算1183
 「そうかもしれない。ところで、リョウ君、美津子のことだけど…。リョウ君に会いに来るかも。それとも、もう会っている?」良は答えられなかった。
 「美津子がなぜ自分と会うことを知っているのだろうか?」−彼は不安がよぎった。
 「君は美津子と今でも付き合っているのかい?」
 「大学を卒業してからもずっと…。」
 「へぇ、美津子はどうしている?相変わらず上品でキレイ?」彼は彼女と会っていることを隠して聞いた。
 ママも知らない素振りをしていた。

 別れの時219 通算1184
 「女の私から見ても惚れ惚れするくらいキレイよ。リョウ君も会ったら驚くわよ。」
 「そうなんだ。」
 「でも、リョウ君。彼女と別れて…正解だったと思うわ。…。」
 「どうして?」
 「あまり言いたくない…。友達だから…。」
 「美津子が何か?由美…美津子が?」彼は落ち着きを失い、取り乱した。
 「まだ、リョウ君は美津子のことを…。どうしようもないバカなリョウ君…。ホントに何も変わっていないわ。…」

 別れの時220 通算1185
 「リョウ君、悪いことは言わない。美津子があなたに会いに来ても…絶対に本気になってはダメよ。美津子は昔の美津子とは違うのよ。…」
 「どういうことだ?美津子はどうなったんだ?教えてくれ。」
 「…美津子のことになるとムキになるのね…。リョウ君は…あの頃のリョウ君とまったく同じ…。」
 「由美、教えてくれ、お願いだから。」
 「友達だから言いたくないけど…。美津子はどうしようもない遊び人よ…。」

 別れの時221 通算1186
 「ご主人にも愛想をつかされて…。離婚されそうなの…。」
 「えっ!美津子が…あの美津子が…。」
 「だから言いたくなかったのよ。リョウ君は昔の美津子の夢を追っているのよ。もう、あの頃の美津子はどこにもいないの。ご主人にも追い出されそうな女に変わってしまったのよ。」
 「ウソだ!あり得ない。美津子がそんな女になる訳がない。」
 「リョウ君ってバカねぇ。いつまでも夢と幻想を追って…昔のまんまの夢想主義者…」

 別れの時222 通算1187
 「あの美津子が…。」彼の目からは涙が流れた。カウンターの中でそれとなく聞いていたママが 「そんな気がしていた…。」小さく呟いた。
 髪をアップにしたあの可憐な少女が、そして上品なあの和服姿の女性が、多くの男に抱かれていたのだ。それとも知らず、良はその幻影をずっと追っていたのだった。
 「リョウ君と別れてから、しばらくしてあの子は遊びだしたわ。次から次へと男遊び…。」
  「…。」

 別れの時223 通算1188
 「わたしが止めても無駄だった。あの子は虫も殺さない顔をして、男から男を渡り歩いたわ…。結婚してからも同じ。いい旦那さまなのに…。」「…」
 「お金持ちのお嬢様だから、男をアクセサリーくらいに思っているのでしょ…。」
 「リョウ君との恋が唯一の恋だったみたい…。リョウ君の影を求めていたのかもしれないけど…。」「…。」
 「旦那様に追い出されてもお金の心配はまったくないけど…。」

 別れの時224 通算1189
 「あの子は昔付き合った男性の中で良い人を選んで、よりを戻そうと思っているみたいにしか思えない。女の私から見れば信じられないわ。昔の男なんて…。」「…。」
 「でも、リョウ君だけはダメと思っている。ひたむきに愛したリョウ君にだけは、今の自分を見せたくないと思っている。それが彼女の最後のプライドかも…。」 「…。」
 「リョウ君に会いにくるときには、誰も相手にしなかったとき…。」
 「俺が悪いんだ。俺があのときプロポーズしていたら…。すべて俺のせいだ…。」
 「…。」

 別れの時225 通算1190
 「美津子は悪くない…。俺が彼女をダメにした…。」涙が止まらなかった。
 「言わなければ良かった。二十年ぶりにせっかく会えたのに…。懐かしい人に会えるかも…本当はリョウ君に会えるかも…期待していたの…。でも…、まさか…リョウ君に会えるなんて…。」
 「わたしも美津子も変わったの。でも、結局変わらなかったのはリョウ君だけかも…。」
 「そうねぇ、リョウ君は昔のまま…。」ママが口を挟(はさ)んだ。

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