連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

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  「リョウ君、そんなに寂しそうな表情をしないで…」
  「もっとサンドウィッチを食べて。一生懸命作ったのにぃ。」
  「リョウ君の食べっぷりを見ると嬉しくなる。頑張って作った甲斐(かい)があるわ、とっても美味しそうに食べてくれるから。」
 「美味しそうじゃなくて、君の作ったこれはホントに美味しいの。」
  「ホント?リョウ君に褒(ほ)められると嬉しい!だって、リョウ君グルメでしょ。」

 千晴との出会い27 通算342
  「グルメなんかじゃないって!食い意地がはっているだけだ。」
  「リョウ君、美味しい店に連れて行ってくれない?」
  「良いけど…。君の口に合うかどうかは分からない。味覚は十人十色だから…」
  「いいの!あなたが美味しい店なら、わたしきっと好きになると思うから。」
  「そのうち機会があったら…」
 「ダ〜メ、はっきりした日を決めなきゃダ〜メ!」
 「約束してくれなければリョウ君を帰さないも〜ん。女と食べ物の恨みは怖いのよ。」−悪戯(いたずら)っぽく上目遣いに睨(にら)んだ。

 千晴との出会い28 通算343
 「コラッ、色っぽい目つきをするな。ゾクッとするじゃないか!」
 「ええっ?色っぽいなんて言われたの、生まれて初めて!リョウ君だって、キャピキャピと言ったじゃない。」
 「もう一回してみようかなぁ?しっかり見てくれる?」
  「君には勝てないよ。降参、降参…。来月の最初の日曜日はどう?」
 「ダ〜メ!もっと近いうち。」
  「再来週は?」
 「それもダ〜メ!来週の日曜日!」
 「分かったよ。じゃ、来週の日曜日に。」

 千晴との出会い29 通算344
  「やったー、リョウ君と来週もデートができるぅ!」
  「嫌いな食べ物はない?」「ありましぇーん。」−千晴は芸能人を真似た。
  「手打ちそばはどう?」
 「手打ちそば?普通のおそばと違うの?」
 「まったく違う食べ物と考えた方がいいだろう。」
 「食べた〜い!絶対食べた〜い!次の日曜日が楽しみ!それまで我慢できないかも?」
 千晴の明るさは美津子のことを忘れさせた。良には千晴が美津子と別れたあとの苦しみから救ってくれるように感じた。

 千晴との出会い30 通算345
  「話ばかりして動物をあまり見なかったねぇ。」
 「いいの、動物の代わりにリョウ君をしっかり見たもん。」
 「俺は動物の代わりか?」「そう、いけない?」
  「じゃ、狼になってキャピーを襲うぞ!」
 「襲って!…、襲えないでしょ、リョウ君は弱虫だから…。」 良は千晴との会話には戸惑いを覚えた。
 本心がどこにあるのか、皆目(かいもく)見当がつかないのだ。すべて本当のようで、すべて良をからかっているような感覚に襲われた。

 千晴との出会い31 通算346
  帰りの車の中でも同じだった。小学生のような幼い面を見せたかと思うと、次の瞬間には大人の女性を感じさせた。
  「俺、君が分からない。少女かと思うと大人の女性を感じさせる。」−良ははっきり口にした。
  「わたしが?わたしはいつもこうなの。普段と同じ。何か変?」
  「変じゃないけど、俺、戸惑っている。」「どうしてなのかなぁ?」
  「分かったわ、リョウ君の考え過ぎが原因ね。リョウ君は理論的に考え過ぎなの。もっと素直に人を見なくちゃ、ね。」−彼女はケロッとしている。

 千晴との出会い32 通算347
  「この辺りで車を止めて、リョウ君。」何を思ったのか、千晴は人通りの少ない道路の路肩に車を止めさせた。
 「どうしたの、キャピー?」 千晴は瞬(まなた)きもしないでじっと良を見た。車のエンジンを切らせ、良の手を握り締めた。
 「…キスして、リョウ君…」−それは後には引かない強い意思を感じさせた。仕方なく黙って良がそっと肩に手を回すと、千晴は小刻みに震えていた。
 「恐いのだろう?」
 「ううん、恐くない。ちっとも恐くない…。」

 千晴との出会い33 通算348
  「無理をしたらダメだ。」
 「リョウ君、わたし、無理なんかしてないもん。ちっとも恐くない。だから、キスして…」小さく震えながら目を閉じている。彼はそっと彼女の頬(ほお)に唇を触れた。
  「さぁ、遅くならないうちに帰ろう。両親が心配しているよ。」
  「リョウ君、胡麻化さないで!キスして、お願い!」 もう一度肩に手を回した。
 彼女は彼に身体をあずけた。彼女の唇に顔を近づけると、女らしい甘い香りがした。

 千晴との出会い34 通算349
 彼女は身体を固くした。思い切って唇を重ねると、千晴は一層身体を固めた。彼女が背伸びしているのが良にもヒシヒシと伝わった。良はしばらくの間唇を重ねた。唇を離すと千晴の目からポロポロと涙が流れた。
 「なぜ泣くの?」
 「分からない。私にも分からない。」 彼が再び抱きしめようとすると、ぐったりと身体をあずけてきた。彼女の涙は止まらなかった。
  「泣かないで、キャピー…」

 千晴との出会い35 通算350
  「悲し涙じゃない、恐かったからじゃない、なぜか涙がでるの。リョウ君、教えて。なぜ、涙がでるの?ホントは嬉しいのに…。リョウ君好き、リョウ君好きよ。あなただけは…あなただけは…男性不信も消えるの…冷たくしないで、リョウ君…わたし、弱い女なの…」−千晴自身、自分で何を言っているのか分かっていないようであった。
 「何も言わなくていい。俺、全部分かっているから…」「リョウ君好き…」 彼の腕の中で彼女は涙を流し続けた。
 良は千晴に惹かれつつある自分を感じた。

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」

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