連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

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 「キレイだ、美紀。本当にキレイだ。」 良はうっとりした表情で彼女の身体を眺めた。
  「足、太くない?」
 「バカだなぁ、そんなに美しい足をして。」 「ホント?」
 「むしゃぶり付きたいほどキレイだ。」 彼は太腿(ふともも)に軽く唇で触れた。
 「ダメッ。感じるじゃない。リョウ君。」
 「もういい?リョウ君の背中を流したいの、わたし…。」
 千晴との会話と同じであった。彼のアパートに来ては二人で背中を流し合ったものだった。

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 その頃の思い出が走馬灯のように彼の頭の中を巡(めぐ)った。
 「リョウ君、レロレロして…。」  彼は一瞬何かの聞き違いかと思った。
 「リョウ君、レロレロして…。」 それは間違いなく美紀の口から発せられていた。
 「なぜ君がそれを知っているんだ!なぜ?」
  「あの夜、ミツコ、ミツコと何度も言いながら、『キャピー、レロレロする?』ってうわ言のように言ってたの。」
 「レロレロって何?わたしにもして。」

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 「俺、そんなことまで言っていたのか?」
 「それ以外にも女性の名前をいくつも言っていたわ。」
 「ウソだろ?」 良は狼狽(ろうばい)した。
 「どんな名前を言っていた?」
 「由美さん、幸子さん…それに志津子さんだったかな?心当たりある?」 恋人でなく友達として付き合った人まで口にしていたのか。良はうろたえるばかりだった。
 「心当たりあるのね、この浮気者!」
 「ぜんぶ単なる友達なのになぜ夢と現(うつつ)の間(はざま)で言ったのか、自分自身が驚いているんだ。」

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  「ウソよ!リョウ君の反応を見ただけ…。よくある名前を挙げただけ。でも、リョウ君は狼狽(ろうばい)していたわ。きっと疚(やま)しいことがあるのね。」 美紀は声を立てて笑った。
 「悪い子だ!レロレロを教えない。」
 「ヤダ!わたしにもレロレロして。」 彼は黙って美紀を引き寄せ唇を合わせた。
 「ウグッ、」 急なキスに美紀は驚いた。
 良はかまわず彼女の歯と歯茎を舌で遊んだ。堅く閉じていた彼女の口が開いた。彼は舌を入れて美紀の舌を弄(もてあそ)んだ。

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 彼が唇を離すと、「ああ」彼女の口から切ないため息が漏れた。
 「これがレロレロなの?ホントにレロレロって感じね。体がトロけそう。」
 「もう一度レロレロして…。」 風呂の中で何度もせがんだ。
  「美紀、背中を流してくれるのを忘れてない?」
 「忘れてないけど…レロレロの方が楽しいわ。」  美紀は彼の背中を愛(いと)おしむように洗った。
 「全部洗って、美紀。」
 「イヤよ、ダメ!恥ずかしいこと言わないで!」 と言いながら彼の体の隅々まで良の身体を洗うのだった。

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 彼を洗うぎこちない手つきは美紀の男性経験の少なさを感じさせた。それだけでなく、まったく経験がないのではとさえ思われた。
 「わたし、男性とお風呂に入ったのも初めて。リョウ君だけは別なの、とっても恥ずかしいけど…。それがなぜだか自分でも分からない。」 ウソをついているとは到底思えなかった。
  「それに…体を全部見せたのも初めて…リョウ君には何でもしてあげたくなるの。」 「…。」
 「わたしの体だけ求めた男と全然違うの…。」

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  「リョウ君は自分を全部ぶつけてくるような…。」 「…。」
 「わたし誰とでもセックスする軽い女じゃないわ。たった一人だけ。それも数回だけ…。ふしだらな女と思わないで…。お願い!」
  「君の接し方で分かっている。」 「ホント?」
  「身体を隅々まで洗ってくれたとき、君が男性とお風呂に入ったことがないことも、ましてや男性の体を洗ったことがないことくらい分かるよ。」
 「絶対ホントね!よかったぁ。」

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  「わたしの付き合った男は、わたしの体と父の会社に興味があったみたい。二、三回セックスした後は、わたしを所有物のように振舞うの。」 美紀は今まで胸につかえていたものを吐き出すかのように話した。
  「『俺は仕事ができる』『会社を経営する力もある』そんな話ばかりするの。弟はわたしと年が離れているので、わたしと結婚すれば社長になれると思っている感じだった。」「…。」

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 「どんな人でも受け入れられる自信はあるけど、あんな軽くて打算だけの男は大嫌い!すぐに別れたわ。」 「…。」
 「リョウ君に処女をもらって欲しかった…。もっと早くリョウ君に会えていたら…。一生の宝物の思い出にして生きていけたのに…。わたしも過去を消してしまいたい…。」 「…。」
  「でも…いい経験だとも考えるようにしているの…。過去は消せないから…。」 「…。」
  「リョウ君との、あの夜のことは一生忘れない。私の唯一無二の宝物なの。」

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 彼は何も言えなかった。
 「今度は俺が美紀の背中を流してあげる。」
 「部長に洗って貰えるの?恥ずかしいけど嬉しい!」
 彼女はその背中を良に向けた。きめ細かな肌は仄(ほの)かに上気していた。石鹸をたっぷり塗りつけた。
  「くすぐったいッ!」
 「じっとして。」 彼はタオルに力を込めた。
  「少し痛いわ、もっと優しくして…」
 「背骨の辺りは自分で洗えないから二十五年の垢(あか)が付いている。それを全部洗い落としてあげる。」

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」


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