連載小説 追憶の旅     「第3章  良の苦悩」
                                 作:夢野 仲夫

   
(本文) 「美紀の苦悩」

 良の苦悩321 通算951
 「わたし、自分に言い聞かせている。なるようにしかならない…。今が幸せならそれでいい…。明日のことなど誰にもわからない、と言い聞かせているの。」
 「美紀、もうそれ以上言わないで…」彼は振り向いて美紀の唇を塞いだ。
 「ウグッ」 美紀へ限りない愛しさを感じた。彼は何もかも忘れさせるかのように、激しく彼女の唇を吸った。
 「この子まで不幸にしてはいけない。」心の奥深く密かに思わざるを得なかった。

 良の苦悩322 通算952
 「リョウ君、気にしなくていいの。わたしが勝手に思っているだけだから…。リョウ君。」涙が流れて止まらない良の身体を、まるで壊れ物を扱うような優しさで洗う美紀。
 苦しい自分と戦いながらも、良に心の負担を掛けまいとしていた。
 「俺の存在が…俺なんて居なければ良かったんだ。」
 「否定的な考え方をしないで。お願いだからリョウ君。あなたと出会えただけで、わたし嬉しいの。」

 良の苦悩323 通算953
 「美紀。」「はい。」
 「ごめん、俺は…俺は…。」彼は離婚したことを言わなかった。言えば、美紀にある種の希望を持たせることになるからだった。十七歳の差は良には限りない、乗り越えられない壁であった。
 「リョウ君、泣かないでわたしを洗って。」美紀はわざと明るく振舞った。彼女から渡されたタオルを、彼女の肌理の細かい肌はわせ)(に這わせた。背中だけでなく形のいい胸の膨らみにも撫でるように洗った。

 良の苦悩324 通算954
 堅くなった乳首に良の手が触れる度に、彼女はわずかな声を上げた。左手で抱きしめられた美紀は、ぐったりと彼の腕に身体を預けた。 彼の手が秘部に触れようとしたとき、一瞬身体を強ばらせたが、すぐに為すままにぐったりした。
 彼が唇を合わせると、彼女の方から必死に貪った。 彼はたっぷり石鹸を手につけた。その手を秘部に当て柔らかく動かした。彼女のそこには明らかに分かるほど滑(ぬめ)っていた。

 良の苦悩325 通算955
 「アアン、トロけそう、リョウ君、トロけそう。」彼女は断続的に悦びの声をあげた。 彼の手が太腿から膝に下りたとき、閉じていた目を開いた。
 「リョウ君って悪い人、嫌い…」精一杯の愛情がその瞳には込められていた。
 「足が太くない?」美紀はまだ気にしていた。健康的な足をなぜ太いと感じるのだろう?彼には女心が理解できなかった。
 「くすぐったい!」彼女の膝に手のひらを当てて、そこでジャンケンする悪戯(いたずら)をすると美紀は身をよじった。

 良の苦悩326 通算956
 「子どもねぇ、リョウ君は。悪戯してはダメよ。」まるで我が子に諭すようであった。 良は美紀の足の指先まで丁寧に洗った。その後、バスタオルで美紀の身体の隅々まできれいに拭いた。美紀は良のますままにしていた。
 「わたしにも拭かせて。」同じように良の身体を拭く美紀の乳首に唇を触れた。
 「ダメ、身体に力が入らなくなる…。」言いながらも避けようとはしなかった。
 「うふ、元気なこと。かわいい。」彼の下半身を軽く握った。

 良の苦悩327 通算957
 良は彼女を、お姫様抱っこして寝室に運んだ。
 「重くない?」
 「うん、重くて、ぎっくり腰になりそう。」
 「バ 〜カ、リョウ君のバ 〜カ、ムードが良くなると壊すんだから…。」 ベッドに下ろすと美紀が下から妖艶な表情を見せた。
 二十五歳とは思えない色気であった。彼は限りない欲望が湧いてきた。唇を胸から下に向かって這わせた。
 「ああ、」彼女の口からため息が漏れた。彼の唇は足に下がり、指の間に舌を入れた。
 「アウ!ダメ!そんなところダメ!ウ 〜ン」

 良の苦悩328 通算958
 恥ずかしさと快感の間に美紀は彷徨(さまよ)っているようであった。良はさも愛しそうに、足指にも舌を這わせた。彼の唇は上に上がり、彼女の秘部に向かった。どこに向かうかを予感した彼女は身体をくねらせた。
 「ダメ!リョウ君、ダメ!恥ずかしい!」そこは口とは裏腹に濡れていた。
 「ダメ…ダメ…。」消えていくような声に変わり、
「ハァ、ハァ、ウ 〜ン、ウ 〜ン。トロけそう、リョウ君、トロけそう。」抑えていた悦びの声は段々と大きくなった。

 良の苦悩329 通算959
 彼が上に乗ろうとすると、彼女は身体を開いた。先日の経験でどうしたらいいか分かっているようだった。彼は彼女を貫いた。あの日の感触とは明らかに違っていた。彼はそっと腰を動かした。
 「ウ 〜ン、ウ 〜ン。」美紀は良の腕の中で軽い痛みと快感の間にゆれていた。
 彼が昇りつめたあと静かな時が流れた。
 「リョウ君、わたし…トロけそうになっちゃった。男と女はあんなことまでするの?」
 「あんなことって?」
 「足の指の間まで…。恥ずかしいことするのね。」

 良の苦悩330 通算960
 「誰にもしてない、美紀が初めて…。」
 「ホント、リョウ君。絶対にホント?美津子さんのもしてない?」彼女の目が輝いていた。 
 「男と女の性には決まりがない。二人だけの愛の形があるんだ。」
 「ふ 〜ん、深いのね、セックスって…。」
 「俺と美紀の性の形とリズムができる。」
 「二人だけの?」
 「そうだ、二人だけの。だから、美紀が浮気をしても俺にはすぐ分かる。」
 「ウソでしょ。」
 「本当だ。微妙なホンのわずかのズレが生まれる。」 
 「それは誰でも分かるの?」

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       第3章 良の苦悩(BN)
 (0631〜) 恵理の葛藤「おでん 志乃」
 (0651〜) 良の隠れ家へ美紀が…「会員制クラブ 志摩宮」
 (0671〜) マンションに誘う美紀
 (0686〜) 美津子から急な呼びだし
 (0701〜) 美津子の夫のアメリカ赴任「料亭 古都」
 (0731〜) 宣戦布告以来初めて3人で食事「豆腐料理 沢木」
 (0741〜) 馴染みのバー「クラブ 楓(かえで)」
 (0756〜) 人生の転換期の苦悩「ビストロ シノザキ」
 (0771〜) 美紀の弟正一郎との出会い「イタリア料理 ローマ」)
 (0806〜) 美津子と想い出の店で「和風居酒屋 参萬両」
 (0823〜) 美津子との復活
 (0856〜) フランス料理「右京」
 (0881〜) スナック「佳世(かよ)」
 (0891〜) 美紀と初めての夜
 (0916〜) 良の家庭崩壊「寿司屋 瀬戸」
 (0936〜) 美紀の苦悩

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